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日馬をつなぐビジネスマガジン

編集委員

箱木 恵梨子 (ライクアライジングサン )
西川 大貴 (TNY コンサルティング マレーシア)


今回 JACTIM 広報委員会では、KL 周辺やモントキアラで展開されているオンデマンドバスサービス(DRT)「”mobi”」を運営する NADI WILLER SDN. BHD. (NADI WILLER)を訪問し、Country Manager(Senior Operation Lead)である高橋和宏氏にお話を伺いました。

NADI WILLERは、日本のWILLER株式会社(WILLER)とマレーシアの Nadicorp Holdings Sdn Bhd(NADI)による共同出資により設立された合弁会社です。

WILLER は日本各地で高速バス・地域交通・観光モビリティを手がける交通サービス企業で、安全性の高い運行管理やデジタル技術を活用した交通サービスに強みを持ちます。一方、NADI は、製造、交通、物流、防衛、貿易などの事業を行う多様な子会社や関連会社を有するコングロマリットであり、マレーシア全土で公共バス網を運営する大手交通事業グループで、国内の公共交通インフラを支える存在です。

こうした NADI と WILLER の強みを融合した”mobi” は、自社開発のプラットフォーム型アプリケーションから利用者が乗車を予約することにより、指定エリア内に設置されたバーチャルストップ(仮想停留所)間を、 専用バスが最適ルートで運行するサービスを提供しています。

既存の鉄道やバスといった公共交通を補完するファースト/ラスト・マイルの移動手段として位置づけられ、洗練されたドライバーによる安全・安心な運行に加え、気軽に利用できる点も”mobi”の特徴です。


高橋氏によると、日本国内では既存事業者・法規制との調整が複雑で、大胆な実証が難しい状況があったとのこと。そこでまずシンガポールで小規模実証を行い、次の挑戦の場として選ばれたのがマレーシアでした。

その理由として、
• 交通網に隙間があり、移動改善ニーズが高い
• 日本政府の補助金(グローバルサウス補助金)が活用できた
• 行政連携に強いNADIの存在

が大きかったといいます。NADI はマレーシア国内で長距離バスや公共交通を幅広く展開しており、日本のテクノロジーを現地の交通インフラと結びつけるうえで欠かせないパートナーとなっています。


“mobi”の大きな強みは、単なるオンデマンド運行ではなく、日本式の運行管理を現地で再現している点にあります。

  1. ドライバー教育の徹底
    高橋氏は、”mobi”の運行を担うドライバーについて、「日本から運行管理者を招き、集中研修を行うことで、安全、マナー、車両点検、実地走行まで日本基準で徹底して指導しています。」と述べ、教育体制の厳格さを強調しました。NADI WILLERのドライバーは、安心・安全な運転技術+サービス提供者としての姿勢を会得しているのです。
    また、利用者評価をキャリアアップに反映する仕組みも導入し、ドライバーは「安全運転・丁寧な接客を続けるほど評価される」というキャリアパスを示している点が印象的でした。
  2. 利用者の声 → 即改善
    “mobi”は現在、モントキアラ、ララポートの各エリアにおいて運行し、これらのエリア間を結ぶシャトルも運行している。各エリアでは利用者の声を積極的に収集し、到着予測時間の精度向上、ピックアップポイント追加、待ち時間ズレの修正など、利用者から寄せられた要望を、スピード感をもってシステムに反映しています。これは、自社開発プラットフォームであることの強みであるといえます。

公共バス RapidKL は広域をカバーする一方で停留所が遠く、Grab は便利だが料金変動が大きい──。”mobi” はその隙間を埋める交通手段 として位置づけられています。

高橋氏は、重点領域として “mobi”が一番活きる「半径2-3km程度の短距離移動」 を挙げています。都市部では「歩きづらいが Grab を呼ぶほどではない」距離が多く、この領域を支えることで、 日常移動の負担を確実に減らせる と考えているとのことです。歩くには遠い、でも Grab を呼ぶほどではない、という「日常のちょっと困る距離」の補完役として利用が進んでいます。

高橋氏は、「まずは、今のエリアで日常の移動にどれだけ役立てるかを見たい」と説明し、”mobi” を 生活導線の中で自然に選ばれる移動手段として育てていく ことを重視している姿勢を示されました。


“mobi” の展開は、マレーシアにとっても多方面での効果が期待されます。とりわけ都市部では、慢性的な渋滞や交通事故の多発、車両増加に伴う環境負荷の上昇など、交通に起因する社会課題があります。高橋氏は、これらの現状に触れ、「短距離モビリティが定着すれば、交通量が部分的に分散され、こうした課題にも一定の効果が期待できる」と述べ、”mobi” がもたらし得る改善の方向性を示しました。


NADI WILLERの自社開発プラットフォームは 、”mobi” のみならず、他の交通サービスや関連領域にも応用できる拡張性を備えているとのことです。高橋氏は、同プラットフォームの将来構想についても触れ、企業向け送迎やスクールバスの位置情報管理、習い事の送迎デリバリーなど、「生活を支える周辺領域」への展開を目指したいと語りました。日本式のオペレーションに基づく安全・安心な生活サービスに対しては、企業や団体、家族を中心に大きな需要が見込まれそうです。

“mobi” はまだ実証段階であるとのことでしたが、日本発の 「安全・運行精度・サービス品質」を基盤とした移動体験が、今後どのように地域社会へ浸透していくのか――5年後にローカルの暮らしの当たり前となっているかもしれない、その可能性に大きな期待が寄せられます。


配車を手配すると、車は予定どおり到着。スムーズに乗車することができました。ドアの開閉サポート、スピード・車間距離の管理、制服着用のドライバー、まさに5Sが徹底された車内の清潔さ、どれも日本式運行管理の雰囲気があり、とても安心感があります。
乗り心地も良く、「毎日の“ちょっとした移動”で使いたくなる」、と思う体験でした。

以上