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日馬をつなぐビジネスマガジン

梅枝 雅子(国際交流基金クアラルンプール日本文化センター)
田邉 尚子(三菱商事)

今回の突撃レポートでは、「マレーシアにおけるハラル食品ビジネス」をテーマに、井村屋マレーシアの小川 篤MD、AFC(アセアンフンドーキン)兼Fundokin Yakin Sdn. Bhd.兼川一典様にお話を伺ってきました。


1.自己紹介と御社の紹介をお願いします。

兼川様(フンドーキン):
 フンドーキン醤油株式会社は今年で創業162年です。よく老舗ですねと言われますが、味噌・醤油やお酒などの業界は皆さん歴史が長いので、特段古いわけではありません。2019年に株式会社AFC(ASEAN Fundokin Corporation)を立ち上げ、同じく2019年にマレーシアの現地調味料会社Yakin Sedap Sdn. Bhd.と、Fundokin Yakin Sdn. Bhd.という現地合弁会社を設立して、新商品の開発等を行っています。
 コロナ禍で2年ほどのブランクがありましたが、2022年7月に、『Rich Sesame Sauce』『Hot Sesame Sauce』『Hot Teriyaki Sauce』『Hot BBQ Sauce』の4商品を世に出し、漸く1年が経とうかというところです。私自身は先月こちらに来たばかりなのですが、今後、商品開発、工場への技術やノウハウの落とし込み、販売などいろいろとやっていかなければならず、プレッシャーに押しつぶされそうになりながら、日々を過ごしているところです。

小川様(井村屋):
 あずきバーや肉まん、あんまんでご愛顧いただいております井村屋グループ株式会社の現地法人です。現地企業とのジョイントベンチャーではなく、井村屋グループの新事業会社の一つである「井村屋スタートアッププランニング」の子会社として当地で設立しました。
 2019年12月の設立ですが、当初より、マレーシアではアイスクリーム事業からの展開を考えていました。これまで中国では20年、北米では10年の歴史があり、直営工場をもって運営していますが、マレーシアでは事業立ち上げのスピードも重視し、当初から工場を作るのではなく、現地アイスクリーム会社である、ポーラ・アイスクリーム社との業務提携により、製品を作って販売する形から始めています。
 商品で言いますと、2021年9月にあずきバーを発売し、小豆、抹茶、ミルクの3つのフレーバーで展開しています。そして、2022年9月に新商品のモチアイス(もちの生地でアイスクリームを包んで中にソースを入れた三層構造のもの)「Mochi Mochi」を発売開始し、こちらも抹茶アイスと小豆ソース、バニラアイスとマンゴソース、チョコアイスとチョコソースの3つのフレーバーで展開しています。この2商品を軸に、小売業様の店舗などで販売いただいていますが、国内での展開には時間が必要で、併行してマレーシアからの他国への輸出もトライアル的に進めているところです。将来的には、井村屋の特色でもあります様々なカテゴリーで商品を展開し、ASEANのみならず中東・アフリカも視野に入れながら、井村屋グループのパーパスである「おいしい!の笑顔をつくる」を実現していきたいと考えています。

2.ハラル商品に取り組もうとお考えになられた理由やきっかけをご教示下さい。

兼川様(フンドーキン):
 当社は、みそ、醤油、ゆず胡椒などの、伝統的な発酵食品等を扱っていますが、今後日本の内需は縮小しかなく、期待できないとの見立てがありました。これは、この業界では30年以上前から言われていたことです。また、当社は1861年創業ですので、歴史的にも創業160周年を超え、「次は175周年(2036年)で200億円の売り上げを目指そう」という社内目標もある中で、これを達成するには海外に打って出るしかない、という状況がありました。
 また、当社では、昔から日本人の生活に密着した「おふくろの味」を大切にしており、これを後世にもずっと伝えていかないといけないという気持ちといいますか、使命感みたいなものもございます。  世界に「おふくろの味」を伝えていくにあたり、この先10年から30年という視点で見た場合、人口の増加率や日本食・日本への親和性などの観点から、アジアのハラル市場に発展性があるのではと考えました。

小川様(井村屋):
 当社も、昨年創業125年、会社設立からでも75周年となります。これまでは、国内を中心としつつ中国、北米に展開していくにあたり、事業拡大はもちろんですが、井村屋のブランディング、マーケティングを含めてローカルへの浸透のための活動にも注力してきました。そのステップとして、ASEAN市場への取り組みを始めた、という背景があります。
 アイスクリームについては、マレーシアなどでは、既に日本からの輸入アイスが多くのお店で手に入りますし、たい焼きアイスなどは日本よりも高いシェアで浸透している勢いです。ですので、将来性はあると考える一方、ASEANに入っていくならハラルは避けて通れないため、初めからハラル前提で考えていました。そのような時に、チュラスに工場を持つ現地アイスクリームブランド、ポーラ・アイスクリーム社との出会いがあり、ハラル・アイスクリーム商品を具体化することができています。
 なお、ハラルは、単なる宗教上の制約を超えて、「食の安心、安全」の枠組みで考えられるという意識が芽生えている認識です。つまり、プラント・ベース食品やビーガンなどの欧米系の食のトレンドにも通ずる大きな可能性がある、と見ています。

3.数ある国の中でマレーシアをお選びになった理由をご教示下さい。

兼川様(フンドーキン):
 第一は、親日国であること。また、マレーシアJAKIMのハラール認証があると、東南アジアや中東の他のムスリム諸国でも通用するという話を聞いたことも要因の一つです。さらには、東南アジアのムスリム圏の中で、英語が通じ、言語的な壁が低いということも考慮した点です。
 実はフンドーキンの本社のある大分県には、立命館アジア太平洋大学(APU)という、留学生を多く受け入れている大学がありまして、そこと組んで協同研究を実施しているほか、ムスリム学生との交流も行っています。そうした中で、平均年齢が若く、今も人口増加傾向にあるという人口構成も含めて、非常に勢いを感じまして、せっかく海外展開するなら元気なところでやっていきたいということで、マレーシアを選びました。
 なお、インドネシアでなくマレーシアを選んだ理由としては、確かに現在の市場規模という意味ではインドネシアの方が大きいですが、今後の経済規模・人口規模の伸びという意味では、マレーシアの方が期待できます。また、やはりインドネシアは島が多く、また、それぞれ文化も生活習慣も異なるなど難しい部分もあったため、長く商売を続けていくにはマレーシア、との判断でした。

小川様(井村屋):
 当社は、先にも述べましたように、ハラル食品としての展開が大前提にありましたので、ムスリム市場で展開する経験をきちんと積みたいということがありました。その点、マレーシアはスーパーやコンビニなどの流通チャネルが、きちんと展開されていますし、コールド・チェーンといったインフラもアジアの中では整備されています。また、現地法人の設立のしやすさや、管理面などでアウトソースをしてサポートしていただきながら事業運営をしていく、という点でのサービスのレベルも高いということも挙げられます。加えて、兼川さんがおっしゃっていた通りJAKIMの認証制度やルール整備が非常にきちんとしていること、他のムスリム諸国とのハラルの相互認証のレベル感や当該分野でのリーダーシップなども重要なファクターです。
 当社は、ムスリム市場に対してはチャレンジャーという気持ちでやっておりますし、当社の商品はし好品ですので、年齢が若く購買力のある層が一定程度いるような、ダイナミックな変化が期待できるマーケットで展開していく必要があります。その意味では、マレーシアを選ぶことにほとんど迷いはありませんでした。
 例えばインドネシアの場合、ある程度の購買能力のある層となるとジャカルタやいくつかの都市部でしか展開できない可能性がありますし、島をまたぐ物流、コールド・チェーンや、流通業様の展開状況がマレーシアほど進んでいない部分もある認識でした。また、現地でアイスクリームの製造を委託する観点からも、インドネシアのローカル企業で適当な候補には出会えませんでした。また、フンドーキンさんのおっしゃるように、政治面・金融面での安定性などを加味して考えたときに、やはりマレーシアという判断になりました。

4.ハラル認証を取得されるにあたり苦心なさった点などございましたらご教示下さい。

兼川様(フンドーキン):
 私どもの合弁相手であるYakin Sedap社はもともとハラル認証工場です。なので、現在販売している商品については、フンドーキンのレシピを使いつつ、現地で生産する形をとっています。なお、ここまでで一番苦心している点ですが、例えば、日本の原料でレシピを組んでいるドレッシングをハラル工場で作るためには一つ一つの原料が現地のハラル原料に置き換えられる必要があります。塩や砂糖などはあまり大きな差がないのでいいのですが、たとえば日本のゴマ粒と現地のゴマ粒は全く異なります。なので、現地のハラル原料で合うものを探すのに大変苦労しました。当社は、先程も言いましたように、「日本の味」がテーマなので、レシピの再構築が難しく、そのギャップを埋めるための作業が大変でした。
 また、こちらのハラル認証工場で日本の醤油を使って商品を作るためには、醤油自体がハラル認証を取得している必要がありますので、醤油工場でマレーシアに認証機関と相互認証関係のある国内ハラル認証を別途取得しました。通常の醤油製造設備では、醸造の過程で必ずアルコールが出ますし、他の白だしなどの製品と製造ラインを共有せざるを得ず、そうすると生産工程でどうしてもアルコールや豚原料のものへの接触がありますので、これを回避する唯一の方法は、ハラル醤油単独の設備を区分けし新たに設けることでした。つまり、日本で入手できるハラル原料のものは限られるため、実は日本の方での苦慮があったということです。社内的にも、大分でずっとやってきましたので、古参の社員の中には、なぜ今までのやり方を変えないといけないのか、と考える方もいて、ハラル市場に挑戦するという大目標は共有しているとはいえ、社内の理解を得るのにも苦労しました。

小川様(井村屋):
 業務提携しているポーラ・アイスクリーム社はハラル認証工場なので、ハラルを取得して販売するという点において、全体としては大きな問題ありません。ただ、やはりハラルの原材料を使わないといけない制約の中で、企画通りの商品を具現化するのが難しいです。特に、あずきバーのように、軸となる商品イメージが明確にある場合、これを再現するのが難しいですね。
 日本のあずきバーは非常にシンプルな原材料の組み合わせで、ガチガチに固いという点が逆にアピールになっているところもありますが、こちらではそれでよいのかという点、また、日本の配合で作りますと、固いものの、ある温度から急激に溶けやすくなる傾向があります。これを軽減するには配合を工夫しないといけませんが、そのためのハラル原料が思い通りに手に入るかという問題があります。原材料の一部は輸入する必要がありますので、商品開発のスケジュール感にも影響します。こうした点が最も苦労した点の一つです。
 なお、当初は、弊社にノウハウもほとんどない状況でしたので、ポーラ・アイスクリーム社の勧めるハラルの原材料をまずは試すという形でしたが、実際2年程度やってみて、原材料関係者様とのネットワークもできてきて、選択肢も広がってきています。たとえば、農産物をそのまま使う場合には特にハラル認証を取得している原料であるということにこだわらなくても良い、という点も当初は知らず、あずきバーの小豆についてもポーラ・アイスクリーム社が使用しているものを使っていたのですが、そこは選択肢があることがわかってきましたので、より良い商品にするためにリニューアルも検討しています。

5.マレーシアでの今後の展開についてお答えできる範囲でご教示ください。

兼川様(フンドーキン):
 主に小売りチャネルでの展開になるので、今の目標はネットワークの拡大です。AFC(ASEAN Fundokin Corporation)の商圏としてはムスリム圏で中東なども含むため、これの足固めをマレーシアでやって、マレーシアのアッパーミドル層から富裕層における当社ブランドの認知度を高めたうえで、そこから他のムスリム国へも発展させていきたい、これが中長期的な目標です。

小川様(井村屋):
 まずは、既存商品の販路拡大に努めたいと思います。主要な小売業様はもちろんのこと、現在、レストラン、ホテル、リゾートへの展開を考えています。なお、あずきバーはプラント・ベースで脂質も低く適度な糖質もあるうえ、ポリフェノールや食物繊維も含み、健康性の高い商品でもあるので、そこを強調して売っていきたいです。たとえば、今、ホットヨガ・スタジオのあるフィットネスクラブでも取り扱っていただいています。
 また、個包装のアイスクリームは溶けやすいのが難点ですので、家庭向けの大型のカップやボックスタイプの製品の開発も検討中です。また、将来的にはアイスだけでなく、井村屋の日本での商品、たとえばカステラ、肉まん・あんまん、豆腐などの商品を広めていくことで、井村屋ブランドの浸透をはかり、ASEAN地域への展開の足掛かりにしたいと考えています。あまり知られていませんが、井村屋では、日持ちのする豆腐を、添加物でなく製造技術により実現、以前から国内で販売しておりますので、こうした商品の展開の可能性も考えています。
 また、マレーシアからの国外展開ですが、実はシンガポールの小売様の店舗でアイスを売り始めています。インドネシアについては、海外進出の初めの段階から輸出の手続きを始めていたのですが、原材料データなど様々な書類の提出と審査で非常に時間がかかっています。が、つい先ごろ当社側の手続が終わりましたので、あとは現地の小売業様側の手続きが終われば、インドネシアでも販売を開始できる状態です。

6.最後に、読者の皆様へメッセージがありましたらお願いします。

兼川様(フンドーキン):
 味噌や醤油というと、どうしても海外の日本人の皆さまに向けたものと思われがちですが、ビジネスとして長くやっていくためにはローカルの方々へのアプローチが重要となります。味噌や醤油の良さや様々な料理等に活用できることを、ぜひ周りのローカルの方々に草の根的に広めていただければありがたいです。

小川様(井村屋):
 まだマレーシアでの事業を立ち上げたばかりで小規模に展開していますが、だからこそ、フレキシブルに対応していきたいと思っています。生活者の嗜好も市場もめまぐるしく変わるので、今後を想定していくのが難しいところがあり、マレーシアではどういうところがビジネスのポイントになるかつかみ切れていません。ですが、変化への対応は私どもだけでできる話ではなく、マレーシアで既に事業を展開されている皆さまとのパートナーシップは不可欠ですので、ネットワーキングをぜひお願いしたいです。販売につきましても、食品流通や飲食関係業界の皆さまはもちろんですが、製造業の休憩室や食堂などへの展開、ゴルフ場のお茶屋への展開、企業などイベントでの出展など、様々な可能性があるかと思いますので、是非お声がけいただきたく、どうぞよろしくお願いします。

以上

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