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日馬をつなぐビジネスマガジン

編集委員

山本 有理(全日本空輸株式会社)
木元 海裕 (マレーシア住友商事会社)
齋數 一平(三井住友海上火災保険マレーシア)
赤井 幸司(三井住友海上火災保険マレーシア)


 

1961年にマレーシアへ進出した味の素グループ。調味料の提供を通じて現地の食文化に根差した事業を展開しながら、ハラール対応や雇用創出など、多民族社会の中で着実に事業を拡大してきました。

現在、マレーシアには約1,600社の日系企業が進出していますが、マレーシア味の素社はその先駆けとして60年以上にわたり現地で事業を展開してきた企業の一つです。今回の突撃レポートでは、和田見マレーシア味の素社長にお話を伺い、同社の歩みや事業の特徴、そして海外経営の経験について語っていただきました。


現在59歳、マレーシア味の素社で社長を務めています。昨年の4月に着任し、もうすぐ1年になります。 これまで海外を含めて複数の国で勤務してきました。最初の海外赴任は28歳の頃で、インドネシアに赴任しました。7年間駐在した後に5年間日本で勤務しました。その後フィリピンに4年間赴任し、再び日本に戻ったあと、また海外へというキャリアです。

当社ではASEANへの赴任が比較的多いのですが、フィリピンの後はASEANではなくアフリカのナイジェリアで4年間、南米のペルーで5年間の計9年間を現地法人の社長として勤務しました。ペルー勤務の期間中にちょうどコロナもありましたね。

そこから日本に戻り、3年間勤務したあと、58歳になったタイミングで「マレーシアに行ってこい」と言われて今に至っています。 会社生活は36年目に入りましたが、そのうち海外勤務は22年になります。


マレーシア味の素社は1961年に設立され、1965年に工場が稼働しました。現在まで60年以上にわたって事業を続けてきています。 現在の工場は3年前にこちらへ移ってきたものです。もともとクチャイラマというクアラルンプール市内南部のエリアに工場があったのですが、都市開発(MRTや商業・居住施設等)が進み環境が変わってきたことを考えると移転する必要があるという判断になりました。

そこで現在の場所に工場を移し稼働しています。将来の生産設備増強を鑑み敷地もかなり広く確保しており、まだ活用していない土地の広さはサッカーコート3面分ほどありますね。 マレーシア味の素社は証券取引所に上場している会社です。財務諸表は公開されていますので見ていただければ分かりますが、2024年の実績は円換算で、売上は約240億円、事業利益は25億円程度の規模です。 現在ちょうど2025年期第3クォーターの決算のタイミングで、まもなく開示される予定です。

事業内容は、大きく4つの分野に分かれており、1つ目は、マレーシア国内のコンシューマー向け事業です。一般消費者向けの調味料などを中心に、現地の食文化に合わせた製品を販売しています。
2つ目は、マレーシア国内の外食向けのビジネスです。レストランや屋台など、いわゆるフードサービス向けに製品を提供しています。3つ目は、BtoB事業です。加工食品メーカーなどに対して、「味の素」をはじめとするお客様の製品の原料となる調味料や酵素を供給しています。このBtoBビジネスはマレーシア国内にとどまらず、ASEAN各国にも展開しています。そして4つ目が、輸出事業です。主に中東市場を中心に、サウジアラビアやUAEなどへ製品を輸出しています。このようにマレーシア味の素社は、国内市場、BtoB、輸出の3つを軸に事業を展開し、幅広いマーケットに製品をお届けしています。


どの国でもそれぞれ大変でしたね。 例えばインドネシアに赴任した時は1997年のアジア通貨危機の時期と重なりました。私が赴任した頃は1ドル=2,500ルピア程度だったのですが、最終的には1ドル=15,000ルピアのレベルまで下落しました。 通貨が急落する中で大幅なコストアップに直面し、値上げを短期間に何度も行いながら販売量を維持するというのは非常に難しい課題でした。

また2001年初頭には属していたインドネシア味の素社でハラール問題が発生し、市場に出回っていた製品を回収することになりました。本当に大きな危機でしたね。これまで数十年かけて築き上げてきた様々な資産を失うことになり、宗教と「食」のかかわりや品質保証の重要性を強く認識する機会となりました。

またナイジェリアに勤務した時代も色々ありましたね。赴任当初の私に課せられたミッションはスピーディーな事業拡大ということで日夜邁進していたのですが、赴任して2年位経過した頃からナイジェリアの国家歳入の6割を占める原油価格が大きく下落したことで深刻な外貨不足に陥りました。生産に必要な輸入原料の支払が出来ないと購入出来ませんので、それまで販売店を主としていた得意先訪問活動が大きく変化し、大部分の時間を銀行・金融機関への訪問に費やしドルを調達するという活動が毎日続くという状況になりましたね。

さらにナイジェリアという国は非常にハードシップが高い国なのですが、治安・身辺の安全に関わる様々な問題を身をもって何度も経験しましたね。人命に関わる問題は緊張感と緊迫感で本当に大変で、夜眠れない日が何日も続いたことがありましたよ。

ご苦労されたご経験についても、笑いを交えつつ明るく語られるご様子が印象的でした。
ご苦労されたご経験についても、明るく語られるご様子が印象的でした。

基本を大事にすることですね。小手先のことをするのではなく、正面から問題に向き合うこと。そして逃げずに取り組むことです。 もう一つ大事なのはナショナルスタッフとの信頼関係です。海外の事業は現地の社員がいて初めて成り立ちます。 日本人だけで事業運営は行えません。総じて日本人は組織の長・リーダーというポジションに就くことが多いと思いますが、日々の仕事を通じて誠実に向き合いながら信頼関係を築くことが重要だと思います。


マレーシアの特徴はやはりハラールです。 マレーシアは国家としてハラール産業を戦略的に推進しており、マレーシアの政府機関「JAKIM」が認証するハラールは国際的に認知度・信用度が最も高いと評価されています。米国の調査機関であるディナール・スタンダードがまとめている「世界のイスラム経済の現状レポート」では、マレーシアは厳格なハラール認証制度(JAKIM)とその成熟度・影響力により、世界イスラム経済指標において81カ国中11年連続で第1位(特にハラール食品分野)にランキングされています。 

マレーシアの人口は約3,500万人とそれほど大きな市場ではありませんが、グローバルで年率1.8%で拡大しており2030年には25億人を超えると予想される巨大な市場であるグローバルイスラム圏での中核・ゲートウエィという存在になれる大きな可能性を秘めています。、開拓者精神をもってマレーシアで生産した製品をイスラム圏市場に展開し、味の素グループのコーポレートスローガンである「Eat Well, Live Well」を実現したいと考えています。


各国で必要に応じて現地のハラール認証を取得しており生産しています。(例:タイやインドネシア) どこで生産し供給するのが最適かという点では、各国のお客様の受容性や市場需要、各工場のキャパシティやコスト等を見ながら判断します。

現地法人と地域本部、本社が連携して、需要と供給をグローバルで見ながら調整しています。また、ハラールは確かに大きな武器ではありますが、認証取得と維持・管理は簡単なことではありません。 原料管理・生産プロセス・保管など様々なバリューチェーンを適切にManageする必要があります。サプライヤー含めた教育活動や文書化、監査等々全てが重要で一切の妥協は許されませんね。


やはり基幹であるマレーシア国内市場での事業拡大を推進し堅固な基盤を更に強化することが重要だと思っています。 マレーシアは中国系、マレー系、インド系など多様な食文化があります。特に人口の約7割を占め年々増加しているマレー系の方々を対象とした製品開発は重要です。

主力である調味料の製品開発に加えて冷凍食品やアミノバイタルのカテゴリーでもお客様が価値を認めてくれる製品を提供していきたいと思っています。 そのうえで外食向け・輸出向けの製品開発やBtoBのお客様にお役立ち出来る製品・サービスを提供していきたいですね。


60年以上にわたりマレーシアで事業を展開してきたマレーシア味の素社。
その背景には、現地社会との信頼関係を築きながら着実に事業を積み重ねてきた歴史があります。

海外22年の経験を持つ和田見社長の言葉からは、グローバル企業としての経営のリアリティと、海外ビジネスにおける「基本」の重要性が伝わってきました。今後のマレーシア味の素社のさらなる展開が期待されます!


当日は工業部会による同社工場見学に合わせてインタビューを実施。その様子についても写真でご覧ください。

以上