今回の突撃レポートは、日本でもおなじみのUZABASE スピーダ東南アジア事業 マーケットインテリジェンスご担当者様にインタビューを実施させていただきました。
マレーシア市場の将来予測や、マクロ・ミクロ観点でのポイントなど興味深いお話をたくさんお伺いすることができました。今回はBridge初の試みとして前編・後編の二回に分けてお届けいたします!
編集委員
山本 有理(全日本空輸株式会社)
齋數 一平(三井住友海上火災保険マレーシア)
ユーザベースには、大きく2つの事業があります。個人向けの購読サービス「NewsPicks」と、企業向けのBtoBサービス「Speeda(スピーダ)」です。私はスピーダ事業を担当しており、日本、東南アジア、中国で展開しているうち、東南アジアを担当しています。
スピーダは、日本・アジアを含む1,000万社以上の企業の財務情報や業界データ、3,000本以上の国別業界レポートなどを網羅し、企業概要のデータ収集・分析から資料作成までをワンストップで実現できるオンライン経済情報プラットフォームサービスです。
これまで企業情報を集めるためには、業界レポートや公式ウェブサイトなどから手動で情報を収集する必要があり、多大な時間と手間がかかっていましたが、スピーダを利用すれば、ログインするだけで企業情報、業界レポート、各国の市場状況などを簡単に確認でき、煩雑な作業を大幅に削減し、効率的な情報収集が可能になります。
私自身の役割としては、東南アジアでのマーケットインテリジェンスを担当しています。具体的には、レポートや企業情報を作成し、お客さまにそれを活用していただく支援を行っています。また、営業やマーケティングにも幅広く関与し、お客さまと話しながら関心のある分野を伺い、どのようなコンテンツが役立つかを考えて届けています。
今年4月からユーザベースのスピーダ東南アジア事業に参画しましたが、それ以前は戦略コンサルティングでM&Aや海外戦略などに携わってきました。東南アジアの研究を専門としていたこともあり、仕事以外でもマレーシアを毎年のように訪問しています。
まず、マクロの観点から見ると、アジアには経済が低迷する国が複数あるなかでも、マレーシアは安定した成長をしていると感じます。直近四半期のGDP成長も堅調であり、その成長を支えているのは輸出と内需の両面です。マレーシアの特徴は、人口が増え続けており、購買力も向上していることです。2050年には人口が約4,000万人に達すると予測されており、一定の経済力を持つ国として、将来性が非常に高いと思います。先進国にまでは至らないものの、一定の経済水準に既に達しながらも人口増加を続けている国は必ずしも多いわけではなく、マレーシアの成長ポテンシャルは非常に魅力的であると考えています。
近隣のタイやベトナムと比較しても、マレーシアの将来性には際立つものがあります。ベトナムは高い経済成長の一方、少子化の影響で今後の人口成長には限界があります。タイも同様の人口減少の課題を抱えています。マレーシアは人口の増加が続いており、購買力も15年前頃と比較すると約2倍程度は伸びています。
マレーシアの産業構造にも大きな強みがあります。内需の成長に加え、電子機器や半導体などの製造業の基盤が存在し、特に半導体業界ではマレーシアの存在感が際立っています。半導体製造においては、後工程においても一定の技術を持った熟練労働力が不可欠ですが、マレーシアはこの点をクリアしていることになります。これは、マレーシアが製造業においても他国と差別化できるポイントだと考えています。
現在、マレーシアには、後工程と呼ばれる半導体の組み立てや検査の工程が集積していますが、アンワル首相は今後、ICの設計など、より付加価値の高い上流の工程へのシフトを目指すとしています。「デザインパーク」構想などはその一貫です。既に後工程が集積していることから、上流工程の進出も、中長期には実現可能性もあると見ることもできるでしょう。このような個別業界のミクロの視点から見ても、マレーシアにはさらなる発展可能性があり、今後も注目していきたい市場です。
マレーシアでは、民族別の観点では、マレー系の人口比率が増加しつつあります。また、現状の統計を見ると、マレー系の方の収入が比較的低い傾向が見られますので、ご指摘の見通しは妥当なものであると思います。また、経済政策などを通した裕福でない層への底上げがうまく機能してこなかった部分もあり、人口増加が経済成長にそのまま直結するという安直な見方が適切でないのも事実です。
ただし、都市圏やスランゴールなどにおいて、このような格差は比較的小さいので、もちろん事業や地域による部分はありますが、成長への期待は依然として持てるのではないかと考えています。また、東マレーシアなど一部の地域を除き、特に半島部の西海岸においてはインフラなどの基盤が比較的整っているため、成長を下支えするだけの環境もあるようにも見えます。
なお、マレー系の人口増加が進むことに関連して、ハラルマーケットなど、イスラーム関連の事業機会がさらに成長することは期待できるポイントかと思います。人口規模でいえばインドネシアやパキスタンなどのほうが大きいのですが、マレーシアも中東諸国との繋がりは強く、そういった市場への足がかりにもなります。マレーシア国内のハラル市場が拡大するだけでなく、中東などイスラーム圏への輸出につながる機会もより増えるのではないかと思います。このように、単なる内需の拡大ということではなく、民族構成の変化がもたらす新たなビジネス機会にも注目をしています。
自動車や一般の消費財などにおいても、民族ごとの購買志向には特徴があると感じます。こうした消費志向の違いも、今後の民族構成の変化や購買力の伸長に伴い変化が生じる可能性があり、興味深いところだと思います。
弊社のスピーダを活用することで、東南アジアのトレンドを捉えるための幅広いレポートをご覧いただけます。私が担当する東南アジア市場向けのスピーダでは、自動車や自動車部品などの基本的な産業分類に基づいたレポート作成を行っておりますが、既存の分類に収まりきらないハラル市場や再生可能エネルギーなど、新しいトレンドが最近は数多く登場しているため、特出しの東南アジアのトピックとして皆さんが注目されるところについては別途オリジナルのレポートを作成しております。
また、スピーダの東南アジア版では、各国で多様なトピックへのニーズがあることから、既存のレポートがカバーされていないケースも出てきてしまいますが、そのような場合もお客さまの需要に応じて「カスタムリサーチサービス」などの追加調査やディスカッションをさせていただいております。
マレーシアの労働賃金はシンガポールと比べて低く、一定の競争優位性を保っていますが、当然ながらどの国と比較するかで見方が変わります。例えば、ベトナムやインドネシアに比べれば労働コストはやや高くなっている一方、先進国などと比べるとまだ割安な「ミドル」な位置にあると言えます。このため、コストだけがマレーシア進出の決定要因となるわけではないと感じています。
例えば、単純な組み立てのように技術的要求の少ない分野では、ベトナムやインドネシアが選ばれるかもしれませんが、マレーシアは一定の技術力が必要とされる領域などにおいて選ばれることになると思います。マレーシアの魅力として挙げられるのは、一定の水準を満たす熟練労働力が、一定のコストで得られるということかと思います。
さらに、マレーシアの優位性は人材に留まらず。インフラ面の条件も大きな強みになっているかと思います。半導体製造には一定の条件が求められますが、適切なインフラが整っているため、半導体産業が集積しています。こうした環境的な優位性は、ただ労働者が揃っているだけでは実現できないものであり、マレーシアの優位性を高めていると考えます。
日本企業が提供できる付加価値には様々な形があるかと思います。工場の自動化やデジタル化は付加価値を高める有効な手段の一つです。ただ、人口減少や労働力不足が進んでいるタイなどと比べると、オートメーション化のニーズが喫緊ではない可能性もあります。他には、日本企業が提供できる素材やそれに関連した技術の付加価値には大きな期待が寄せられていると思います。
例えば、マレーシアで盛んなパームオイル産業は、幅広い用途があり、付加価値を高める技術が求められています。また、半導体分野では、日本が強みを持つ素材や部材がいくつか存在しています。マレーシアで注力されている業界において活かすことのできる日本企業の技術的な強みは、非常に価値が高いと認識されているかと思います。
はい、そのような技術のイメージです。他に加えますと、現在マレーシアが直面している課題として、ヨーロッパが提唱している森林伐採に関する規制があります。ヨーロッパでは、特定の時期以降に伐採された農地等から生産された製品の輸入を禁止するという規則を制定しており、延期はされたものの、いずれ何らかの形で実行されることになるかと思います。
パームオイルを多く生産している東マレーシアなどにおいては、伐採時期等の証明が難しいのが実情です。こうした背景から、衛星データやその他の技術を活用して伐採時期を証明する、あるいは製品のトレーサビリティを保証する仕組みが必要とされています。この分野はまだ発展途上ではありますが、単に製品加工の技術だけでなく、こうしたトレーサビリティの部分にも日本の技術が活用されうる余地があるのではないかと考えています。
後編に続く
スピーダ東南アジア事業 マーケットインテリジェンスご担当者様突撃レポート前編はいかがでしたでしょうか。ここまでお話いただいた内容は、日々情報収集、ご提供をされていらっしゃるスピーダ様の洞察の深さが現れた非常に興味深いものばかりだったと思います!
日本ですでにUZABASE、スピーダをご活用いただいている方も非常に多くいらしゃるかと思いますが、ASEAN諸国でも展開されており、東南アジアに特化したレポートもまとめられておりますので、これを機にご興味をお持ちになられた方は以下より概要をご参照ください。
後半は12月中旬ごろ更新予定です!是非お楽しみに!