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日馬をつなぐビジネスマガジン

鳴釜 宏充 副会頭兼貿易投資委員長

マレーシア三井物産社長


(JACTIM役職)

マレーシア三井物産社長(2023年4月1日~)
マレーシア日本人商工会議所選出理事(2023年4月28日~)
マレーシア日本人商工会議所貿易・投資委員長(2023年6月30日)
マレーシア日本人商工会議所副会頭(2023年8月25日~)

(略歴)

1965年7月生。東京都出身。1988年4月三井物産入社。ドイツ語修業生、鉄鋼貿易部、米国三井物産、経営企画部、金属資源本部ベースメタル部長、事業統括部投資総括室長、2019年4月ベトナム三井物産社長を経て、2023年4月より現職。趣味はサッカー、マラソン、読書、B級グルメ。本格的にゴルフを始めたのは大学時代より。これまで約20か国でゴルフプレーの経験有。


 中学三年生の時に、既にゴルフを始めていた社会人の兄とともに、当時世界的には未だ無名であった青木 功選手が世界のトッププロとしてゴルフの帝王と呼ばれていたジャック・ニクラスと4日間に亘り優勝争いを繰り広げた「バルタスロールの死闘」を観戦したことがきっかけです。連日深夜から早朝までテレビの前で中継を見守ったことが懐かしく思い出されますが、皆さんの中にもこの全米オープンを観戦されていた方もいらっしゃるかもしれませんね。結果的に青木選手は2位となりましたが、いまだ多くの人の胸に残る名試合だったと思います。当時はまだ海外でプレーする日本人選手がめずらしく、そんな中、日本人でも世界の頂点で戦える人がいること、アウェーの状態でありながらも世界のトップ選手に一歩も引けを取ることなく、粘り強く勝負している青木選手の姿に感動と誇りを感じるとともに、いつか世界の舞台で自分も仕事をしていきたいと胸を熱くしたことを憶えています。
 このゴルフ中継がきっかけでゴルフに興味を持つようになったものの、それからすぐにゴルフを始めたというわけではなく、父や兄とたまに練習場に行く程度で、高校時代にはバスケット部に所属し、やはりゴルフがやりたいと本格的にゴルフを始めたのは大学入学後ゴルフ同好会に入ってからのことでした。
 大学時代は、泊まりがけでキャディーのバイトをすることも多く、週末に早朝よりハーフラウンドプレーをし、昼間はキャディーとして働き、夕方にはもうハーフラウンドしたりといったこともしていました。栃木県の新宇都宮カントリークラブや千葉県のかずさカントリークラブには大変お世話になりました。好きなゴルフをしながら、キャディーフィーも頂けて大変ありがたいアルバイトでした(笑)。
 アルバイトとしては、トーナメントで男女プロ選手のキャディーをする機会にも恵まれましたが、プロの方と身近に接して一番感じたことは『結果に対するこだわり』でした。一打一打にかけるプロにとってのゴルフ場は予想以上にピリピリとした緊張感に包まれていました。彼らの試合は基本的に木・金の2日が予選、土・日で決勝といったスケジュールです。本来であれば決勝に上がって土日もプレーするはずだった選手が予選で敗退してしまい、早々に会場を後にしなければならない悲喜こもごもの情景なども目にし、プロの厳しさを肌で感じました。
 心がけていたのは、『いかに選手に気持ちよくプレーしてもらうか』ということでしたが、気分をリラックスしたい人もいれば、逆に集中したいといった人もいて、選手の表情や様子から、その時々に合った対応ができるよう機微を読みとる力も培われたかもしれません。時折、次のショットやコースマネジメントについて意見を求められることもあり、キャディーを務めた選手が良い成績を残した際は自分の事のようにうれしく、また、敗れてしまった時には大変悔しく、選手と一心同体でプレーをしているような気持ちでした。日本中から集まったトップレベルのプロによる予選や本戦の現場で、プロの技術を間近で見ることができたとともに、刻々と変わりゆく試合状況下においてプロの方がフィジカル・メンタルの両面で如何に向き合わっているのかなどにも各選手の個性がにじみ出ていて、プロの世界を垣間見ることが出来た貴重な経験であったと思います。


 一つに絞ることが難しいのですが、アメリカに1999年より2007年まで駐在しており、その際に何度か訪れた東海岸ノースカロライナ州にあるパインハーストリゾートと、西海岸カリフォルニア州にあるペブルビーチゴルフリンクスの2か所が特に思い出に残っています。
 パインハーストリゾートは、アメリカゴルフの聖地ともいわれ、ドナルド・ロス氏という著名な設計家によってつくられた伝統と歴史のあるゴルフ場です。冬も温暖な気候で広々とした美しいゴルフ場で、池やバンカーが少なく一見回りやすそうに見えるのですが、実はトリッキーなつくりをしていて、起伏は穏やでありながらフェアウェーでも微妙な傾斜があったり、バンカーが戦略的に配置されていたり、コースの随所に設計の工夫がなされていて、実際に回ってみるとそのコースの難しさに驚嘆しました。ペブルビーチゴルフリンクスは、カリフォルニア州西海岸にある自然環境に恵まれたゴルフ場で、1919年にオープンした歴史ある名門コースであり、100周年を記念し2019年に全米オープンが開催されたこともあります。このコースは各ホールが特徴豊かで、風や天候などの自然環境の変化によりその表情を変える非常に難しいコースでこちらもまた違った面白さ、魅力のあるコースだと思います。

【写真左:ペブルビーチゴルフリンクスにて】【写真右:パインハーストリゾート練習グリーンにて家族と】

 アメリカ駐在員時代は、仕事にプライベートにゴルフをする機会が多く、お客様や友人とプレーするほか、家族旅行で訪れたディスニーランド等の観光地でも一人早起き、隣接のゴルフ場に出かけプレーし、昼前に戻ってきてから家族サービスなんてことがよくありました。同じようなアメリカ人たちも結構いて、大抵他のプレーヤーと一組になります。ある時ご一緒した方が某大手航空機製造会社の副社長であったことがあり、私自身はその方と仕事で直接関わることはなかったのですが、一年か二年した後に、社内の航空機ビジネス担当者から『あちらの副社長と知り合いだったの?鳴釜さんの事を憶えていて、商談に弾みがついて助かったよ。』と言われ、ゴルフが運んでくれたご縁が思わぬところで役に立ちました(笑)。こういった面白いご縁があるのもゴルフの魅力の一つだと感じます。
 また、プレーこそしませんでしたが、冒頭でお話しした、青木功とジャック・ニクラスの対決の舞台となったバルタスロールゴルフクラブに、2005年の全米プロトーナメントが開催された折に訪問し、ここであの激闘が繰り広げられたのかと当時のことを思い出しながらひとホールひとホールかみしめながら歩いたことも感慨深い思い出です。


 ゴルフは実に様々な物事が影響するスポーツで、グリップや身体の軸や向きなどのフィジカル面の一つをとってもそうなのですが、何か考え事があったり、心に落ち着きがない時にはリズムが狂い、思うようにスコアが伸びないなど、心の状態がそのまま結果にも表れます。単純に技術だけを磨けばいいというものではなく、長時間にわたってプレーをすることから精神鍛練を必要とする耐久性のスポーツであると感じていて、ある時「プロより強いアマチュア」と称された中部 銀次郎氏の著書に接し、『自分自身の状態を甘くなく、辛くもなく、正確に把握し、俯瞰して見る』という一文を目にしました。これはゴルフだけではなく、仕事にも通ずることだと感じますが、要所で自分なりのチェックポイントを設け、上手くいっているときは何がよくて、上手くいかなかったときは何がよくなかったのか?を内観し、自身をスクリーニングする習慣を持つようにしました。これを続けていくうちに、問題の原因や対策がより見えてくるようになり、自分なりの対処法が分かるようになってきました。自ずと軌道修正できることが結構あり、そうしているうちにだんだんと調子が上向きになってくるので、今度はこの流れを逃さないために、或いは、取り戻すために、続けているルーティンも疎かにせず継続してやっていくということを心掛けています。 
 しかしながら、そうはいっても、ゴルフも仕事も波のようなもので、いい時もあればそうでない時もあり、すぐに結果がついてくるというものでもありません。中部氏は『ゴルフは平均のスポーツである。』とも言っていますが、ゴルフや仕事、また、人生においても様々な問題や状況の変化があります。どんな状況であろうと現れてくる自分の力を冷静に見つめ、そのアベレージを上げてゆくことが出来るかが肝心であり、一喜一憂しながら、時には気持ちを切り替えながら自己鍛錬を重ね前進してゆくことが大切なことであると思います。
 また、そういう意味では、ゴルフではないのですが、世界的にも著名な登山家の山野井 泰史氏にも影響を受けました。氏は「登山界のアカデミー賞」ともいわれ世界中の登山家にとって最も権威ある賞『ピオレドール』も受賞しています。
 同氏は、今から約40年ほど前に登山をはじめ、当時と比べ、機材の性能などもはるかに向上した現代においても、必要最小限の機材と装備のみを手に天候を予想し登山ルートを策定し、進むも退くも自分の判断といったスタイルで登山を続けられている登山家で、同氏が著書内で語っていた『便利といわれるものを使い、何かの能力を失い始めているのかもしれない。氷河に寝転んで気温の変動を肌で感じながら稜線の風や雲の動きを観察して出発のタイミングを見極めたい。判断するという楽しみを失いたくない。』という言葉がとても印象に残っています。ゴルフにおいても、キャディーさんのアドバイスを丸ごと聞くか、半分くらいを参考にするか、自分が考えている通りに打つか、はたまた、何番のグラブでどこに向いてどの程度の力を打つか、ボールのライや風向きなどを考慮して判断することが続きます。そして、いくらキャディーさんに助言を求めたとしても、最終的にショットするのは自分自身であり、結果に対して責任を取るのは自分です。仕事においてもそうですが、目指す目標に対して周りのアドバイスやサポートに感謝することはあっても、最終的に決断するのは他の誰でもなく自分自身なので、そのままやるというよりは自分なりに考え、決断し、やってみる方が厳しさもありますが、より楽しいと感じます。こんな考えをしていくと「何があっても自分が悪い」と考えるのがゴルフというスポーツとまで思うようになってきましたが、この辺りの感覚は夫婦喧嘩になった時に解決の糸口を見出す上でも大切なヒントになっているかと思います(笑)。
 一方で、同じことを続けるというのはある意味ただ踏襲しているだけとも言え、考えて変化を作ってゆくことが挑戦であり進歩であり、どんなに小さなことでも自ら考えてアクションを起こしたら、たとえ失敗したとしても楽しいと思えますし、次に向けての気づきを得ることもできます。そして、結果に対して自分が責任を持つという覚悟がある分、腹から出てくる力というのも全然違ってくると思います。これをゴルフに置き換えた場合、例えば、スコアが100である場合は、100回自分で考え、判断し、チャンジする楽しみがあるということであり、上達しスコアが上がれば打つ楽しみの方は減りますが、また次の目標や楽しみが出てくるので、今度はその課題に対してプレーするたびにチャレンジ出来るといえ、それがゴルフの面白みでもあり仕事や人生に通ずるところでもあるように思います。

【写真下:ベトナム・ハノイ駐在時のホームコースにて】


 前回の記事で鈴木一郎氏もお答えになっておられましたが、ロイヤルセランゴールゴルフクラブは、コースのレイアウト、設備、クラブの運営、どれをとってもワールドクラスで素晴らしいと思います。また、立地についても、ムルデカ118、TRX、ツインタワーなどの観光名所が一望でき、都心のエリアにゴルフ場があるというのは、アメリカでいえばマンハッタンのど真ん中にゴルフ場があるようなもので、当初は信じられない光景でした。マレーシアに赴任が決まった際、以前KLに駐在していた知人に伝えたところ『半径30分以内に100個ゴルフ場があるよ』と言っていて、最初は冗談だと思って聞いていましたが、それが決して過言ではないと思えるくらいそこかしこにゴルフ場があることに驚きました。 
 また、マレーシアは街並みやインフラ整備、行政についても一定の規律と秩序があり、かつてイギリス領だった頃の歴史の名残を感じます。ゴルフクラブが社交クラブとしての側面を持っており、メンバーが長きにわたってクラブライフを楽しんでいる姿が印象的で、多くのクラブで家族会員としてコースを回られている方や、テニスコートを利用されている方、レストランにお客様や友人を連れて食事しに来られた方などがいます。日常生活の中に自然とゴルフやクラブが溶け込んでいて、ゴルフ場が生活インフラの一つとして機能していることが素晴らしい点だと思います。

写真:KLスバンゴルフクラブ(井上誠一氏設計

【写真上:KLスバンゴルフクラブ(井上誠一氏設計)】


 JACTIMの設立目的・活動理念に、『会員相互の親睦を図る』との一文があり、その点では、JACTIMの活動はゴルフが持つ社交クラブとしての一面もあると思いますが、副会頭および経営貿易投資委員長として今後はより一層の会員企業の親睦・相互発展のため、楽市楽座ではないですが、より気軽に困り事等を持ち込んでいただき、忌憚なく意見交換やフラットに話ができる環境、プラットフォームとしての機能強化を思案している最中です。会員企業の皆様にはおかれましては、ご多忙でいらっしゃる方がほとんどであると思いますが、部会などの活動に積極的にご参加いただき、ネットワーキングをしていただけると、ビジネスだけの関係にとどまらず、そこから派生してプライベートの方でもゴルフを始めとしたさまざまなアクティビティーのつながりが出来、それが仕事にもつながり、いい循環が生まれ、より充実したマレーシアライフにしていただけると思います。
 皆様のハッピーゴルフ!ハッピーマレーシアライフ!を祈念して、締めたいと思います。

以上