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日馬をつなぐビジネスマガジン

広報委員会編集委員

柏村 信光(Infinity Financial Solutions Ltd.)
山本 有理(ANA)

~「日本デザイナー学院 マレーシア校」 宋理事長・小林校長~

今号の突撃レポートは、2022年6月にマレーシア初の日本のカレッジであるNIPPON DESIGNERS SCHOOL MALAYSIA COLLEGE(⽇本デザイナー学院マレーシア校)を開校された宋理事長、小林校長にお話をお伺い致しました。以下、ご報告します。

1.自己紹介と貴学の紹介をお願いします。

日本デザイナー学院はこれまで東京と福岡で活動をしてきましたが、2022年6月にマレーシア校を開校しました。これが初めての海外での開校となります。主な教育分野としてはデザイン、漫画、イラスト、写真などです。

1965年に東京で創設され、初代校長は日本のグラフィックデザイン黎明期における先駆者の1人である山名文夫氏が務めました。デザイン専門学校の中では草分け的な存在で、東京オリンピック後に産業的なデザインの時代が来ることを見据えての開校でした。

その後九州校を開校し、初代校長は西日本エリアの方々にはお馴染みのインスタントラーメン「うまかっちゃん」のパッケージなどで有名な九州を代表するグラフィックデザイナーで童画家の西島伊三雄氏が務めました。また、現在もデビューよりマンガ業界のトップを常に走り続けている日本を代表するマンガ家、里中満智子先生が顧問を務められています。姉妹校である日本写真芸術専門学校では、2016年まで世界的なドキュメンタリー写真家のセバスチャン・サルガド氏が顧問を務めていました。サルガド氏の授業が受けられる世界で唯一の学校として業界内で大きな話題を呼びました。

卒業生に目を向けると、多くのデザイナー、イラストレーターを輩出しており、例えば、松任谷由実、ピチカート・ファイブ、Mr. Children、MISIA、AKB48など、数多くのCDジャケットデザインを手掛けるアートディレクター信藤三雄氏も卒業生の1人になります。漫画の分野においても、東京校だけでも過去10年間で3740本を越える漫画雑誌等への作品掲載実績があり、漫画賞受賞者やデビュー者も数多く誕生させています。

2.なぜマレーシアに日本のデザイン・漫画/アニメの学校を開校しようと考えられたのでしょうか?

ここまで日本国内で数多くのクリエイターを育て社会に輩出してきました。ただし、日本はすでに少子高齢化社会を迎えています。今後10年、20年、30年先を見据えたときにGlobalとOnline(インターネット)で地理的・物理的な制限を超えて我々が持つ宝物のようなコンテンツであるクリエイティブやエンターテイメントを成長市場に売り込みたいという目標がありました。

海外初の開校となるので、対象となる成長市場としては中国、韓国、ベトナムなど様々な国が候補に挙がりましたが、マレーシアで開校する決め手になったのは人とのご縁でした。絶対的に信頼できるマレーシア人の卒業生がいたこと。そしてその卒業生とパートナーシップを組んで仕事をされている方との出会いが我々の背中を押してくれました。また環境面では、マレーシアの治安の良さや、将来的な展開を見据えた時に東南アジアのハブとなり得る地理的な魅力、また、この国では英語が使えるというのも重要なポイントとなりました。

光栄なことに、この度マレーシア初の日本のカレッジを開校することができましたが、結果として開校までに4年かかりました。当初は準備期間を2年と考え開校する予定でしたが、Covid-19パンデミックの活動制限により2年間は準備が滞りました。

開校までの話となりますが、マレーシアでは新規のカレッジ設立の申請受付をストップしているという状況でした。そのような背景もあり、当初はM&Aでマレーシアの既存の学校を買い作り変えるということも検討していましたが難航を極め断念せざるを得ませんでした。試行錯誤する中で、詐欺の被害にあいそうになったりもしました。なかなか状況を前に進めることができず、半ば諦めていたところ、偶然にも福岡県宗像市にマハティール・ビン・モハマド元マレーシア首相が来られ、様々なご縁に恵まれマレーシア開校について直接お伝えする機会を得ることができました。そのご縁で、マレーシア教育省の高官に九州校を視察していただき、2週間後にマレーシア教育省高等教育局幹部へ設立計画についてプレゼンをすることになりました。その後、無事にマレーシア教育省からのカレッジ新設の正式な許可を受けることができ、2022年6月にようやくマレーシア校を開校することができました。

3.マレーシアの学生と日本の学生との違いがあれば教えてください。

マレーシアの学生は、課題や授業に対する意見や疑問を教員に対してはっきり主張します。課題のレベルや量に対して納得がいかなければ思うことを伝えてくる傾向があると思います。このマレーシアの学生の傾向については教員の立場としては嬉しく思っています。学生の主体性・能動性の現れでもあると思いますし、双方向のコミュニケーションが生まれることはとても良いことだと考えています。もう一つ非常に大きな違いと認識していることは、学生同士がすぐに仲良くなるということです。年齢や性別の隔たりなくコミュニケーションを取っている姿は印象的です。コミュニケーションができるということは非常に重要で、専門的な技術や思考力が身に付くにつれ、周りと切磋琢磨し、より高いレベルの作品を制作できることに繋がっていくと考えています。

4.マレーシア校でのカリキュラムの特徴を教えてください。

マレーシアでのカリキュラムはMQAにより厳格に審査・管理されています。日本の場合は、状況の応じて教える側が柔軟に授業内容を調整することがありますが、マレーシアではシステム型でカリキュラムとして決められたことをそのまま教えることが義務付けられています。

クリエイティブ業界の教育現場では、必ずしも不変的な答えを見つけだすことを目的としていません。そのため、マレーシア特有のシステム型カリキュラムには少々難しさを感じているところもあります。

学生の個性や才能を潰さず個性や才能をいかに伸ばすか、MQA(マレーシア資格機構(Malaysian Qualifications Agency: MQA)、教育機関の内部質保証を強化するための教育指針ガイドラインを策定)の要件を守りながら、いかに我々の指導の下で学生を伸ばすかが大きな課題の一つです。

対策の1つ目としては、日本人講師が常駐し、マレーシア人の学生がいつでも日本人講師にアドバイスを求めることが出来る体制があり、常に学生の質の向上を図っています。2つ目は、最先端映像配信技術の導入をしており、日本の姉妹校のセミナーや授業が5000Km離れたマレーシアでもリアルタイムで受けられるようになっています。これは、時間的、経済的制限で日本に行くことが難しい学生にとって貴重な機会になります。

一方、日本のクリエイティブ教育だけに主眼をおいているわけではありません。経験あるマレーシア人講師の授業はもちろんのこと、アドバイザーとしてマレーシア漫画協会会長と契約をするほか、マレーシア国内で活躍するクリエイターを招聘し様々なセミナーやイベントの開催にも力を入れています。

マレーシア校が掲げるコンセプトは「+JAPAN」です。日本とマレーシアの2つの異なる文化や価値観、教育を互いに理解し融合することが出来るところに当校の価値があると考えています。世界へ視野を広げるマレーシアと日本をつなぐ架け橋となること、我々の願いがこの「+(プラス)」に込められています。

5.マレーシアにおける唯一の漫画、アニメ専門のカレッジとして、今後どのような展望をお持ちですか?

まずは現在の1期生の学生を約3年後に無事に卒業させることが目下の目標です。就職先の確保にも日本同様手取り足取り面倒を見たいと考えています。また、この3年間で在籍200名以上の学生数を目指し、今後は認可を取得して日本人をはじめ諸外国の学生を受け入れる予定です。マレーシアのクリエイティブ業界に精通した日本の人材がマレーシアの企業へも就職出来るようになると素晴らしいと思います。

最近、我々は日本最大級のオンライン教育プラットフォームを運営する企業と提携しました。Covid19でオンライン教育の関心が高まるなかで、日本国内で大きな注目を集めている会社です。現在、協力してオンラインのクリエイティブスクール開設への道を模索しています。これと並行して我々が今に至るまで大切にしてきた対面による教育の可能性も今後も追求していきます。
インターネット環境さえあれば、物理的な距離や時間の制約などを気にせずに、好きな時にどこにいても学ぶことができるオンライン教育の良さと、学生と講師が直接対面で関わることによって伝わるリアルな体感や体験の両方を提供できる教育環境をマレーシアで実現したいと考えています。
マレーシアをはじめ急成長する東南アジア各国では、今後クリエイティブ教育の重要性はますます高まっていくと考えています。NDS Malaysiaは、インターネットを最大限活用することで、日本とマレーシアのみならず東南アジア全域でクリエイティブ教育の重要な拠点となることを目指しています。

6. 今後マレーシア社会にどのような強みを活かしてどのように貢献していきたいと考えていますか?

特に2つのことでマレーシアに貢献できると考えています。日本のコンテンツを使ってマレーシアにはないものを生み出すこと。例えば商業広告です。マレーシアでも人気の日本タッチのイラストや漫画載せ商品の説明をするというもの。もう1つは学習漫画です。経済や宗教に至るまで、漫画であれば難解なことを簡単に学ぶことが出来、我々にはこの作成ノウハウがあります。ツールとしてはデジタルでもアナログでも貢献ができるのではないかと考えています。我々の夢は日本との懸け橋としてマレーシア国民の幸福度を上げられたらいいと思っています。

7.最後に、読者の皆様へメッセージがありましたらお願いします。

総じて日本の先行きは市場が縮小傾向にあり、悲観的な見方が多いと思いますが、我々は「世界に輸出できる素晴らしい宝がたくさんある!」と思っています。当校の顧問である漫画家、里中満智子先生がいつも、平和な国にしか漫画は発展しないと言っていました。サミットや各国の代表が集まり会議をするような場所で、こんな時にドラえもんならどうするかな?というような会話が出来る社会が望んでいる社会です。漫画好きに日本に対して悪いイメージをもつ人は少なく、文化交流や相互理解にも漫画は貢献できると思います。
しかしながら、我々のコンテンツは万全ではありません。だからこそマレーシアで化学反応が必要だと思っています。マレーシアに単純に日本のコンテンツを持ってくるわけではなく、教育を持ってきます。Look Eastだけではなく日本からのLook South East Asia, Look Malaysiaということで日本のコンテンツに逆に寄与出来るものが必ず生まれると信じており、大げさかもしれませんが世界平和に必ず繋がっていくと確信しています。