お問い合わせ
日馬をつなぐビジネスマガジン

広報委員会編集委員

池谷 佳代(KDDI)
土山 大地(東京海上マレーシア)
野中 利江子(東京海上ライフ)

~「ISETAN OF JAPAN SDN.BHD」 浅子様~

今号の突撃レポートは、我々在留邦人が親しみの深い伊勢丹の浅子様にお話を伺いました。インタビューは終始和やかなムードで進み、マレーシアにおける日系デパートの先駆者としての日本文化を伝えマレーシアをさらに豊かにするといった使命感を充分感じることができました。以下、ご報告します。

浅子取締役、営業統括GM

1. 自己紹介と御社の紹介をお願いします。

取締役・営業統括GM 浅子と申します。
2021年1月に日本国内の呉服部門からマレーシアに赴任し、最初の仕事は、ロックダウンに伴う休業案内の準備をしなければならないという、今後の先行きが全く想像つかないような状況でした。ISETAN MALAYSIAは1990年にLot10、1998年KLCC、2007年Gardens、2012年1Utama(~2021年4月閉業)を開業し、現在、3店舗を展開しております。

2. コロナ禍はパンデミックからエンデミックへの移行段階に入りました。今現在の率直なお気持ちをお聞かせ下さい。

率直に、通常通りの営業ができることが本当に嬉しいです。ロックダウンの期間は、ほぼ食品以外開けられない厳しい状況が続いていましたが、現在では、2021年10月以降の売上は、順調に戻っており、CNY、ハリラヤの影響もあって、ようやく黒字に転じ、現状では2019年水準まで戻ってきています。

3. 可能であれば、コロナ前と以降、現在とセールス状況がどの程度変化したのかお聞かせください。

お客様の層が富裕層に変わり、単価もかなり上がった印象です。中華系の富裕層数は維持しつつ、マレー系の富裕層数が増加して、割合としてはほぼ半々になりました。外食部門の伸びも大きく、コロナ禍のなか大人数で集まれなかったことの反動ではないかと見ています。また、生活関連用品も、自宅で過ごす時間が増え、より上質なものを求めたいというお客様の心理の向上から、ベッドリネン、キッチングッズ、装飾品などの需要が増加。売上全体の上位を占めるほどの成長分野となっています。食品、洋服についても、お客様ご自身だけでなく、『良質な物を家族に与えたい』という、衣、食、住における顧客の嗜好が向上しているように感じています。

近年の富裕層顧客が、学生時代にイギリス、オーストラリア、香港などに留学経験を持つ世代へと変化してきていて、それに伴い購買志向も変わってきており、最近では欧米の食(パン・ビール・ワイン等)に関する催事は大盛況でした。加えて、安全、安心な食への意識の高まりも見られ、ちとせの野菜やフルーツは駐在の日本人だけでなくローカル富裕層にも好評いただいていており、これも「良いものを家族に食べさせたい」という思いを持つ方が増えたのではないかと思っています。販売好調を受け、現在、ISETANとちとせで限定企画、構想を練っているところです。

伊勢丹としては、安心・安全・上質といった『日本の力』を紹介するという使命があると考えておりますが、日本の強みの一つとして、異国のものをさらに良質なものに編集する力もあると考えており、今後は、「世界の文化を編集して紹介すること」、「ローカル食から世界の食卓への変化」を目指していきたい。



4.  2年を超えるコロナ禍の中で、様々なご苦労があったかと思います。どのようなご苦労を経験されましたか?また、その困難をどうやって乗り越えましたか?

一つ目は店舗運営において、政府が発表する制度が変わることが多く、かつ明確でなかったため、本当に対応に苦労しました。二つ目はキャッシュフローの問題です。店舗運営にあたっては、JACTIMをはじめ、様々な方々に相談させていただきながら進めていましたが、常に焦らず、正しい情報を得ることが大事だと改めて実感しました。キャッシュフローの改善については、オンライン化にもシフトし、MCO下の売上確保に動きました。中でも化粧品が大きく伸長し、時代の変化に伴いオンライン活用を見直すいい機会になりました。また、雇用の確保も苦労したことの1つです。自宅からの移動距離の制限で出社が出来ず、社員のモチベーションの低下や離職率の高まりがありました。我々は、まず雇用の確保を大前提として、未来の方向性を共有すること、対話をすることに重点を置きました。Teams、WhatsApp等を利用してコミュニケーションを継続し、なんとか雇用を確保することができました。今後もオンラインをプラットフォームの1つとして活用し、化粧品のリピート購入や食品のデリバリーなどの分野に力を入れたいと考えています。

5.今後のWithコロナの環境において、注意・注目している事は何でしょうか?

まず一つ目は、マレーシアは他国と比べてもイベントや週末に集まる機会が圧倒的に多く、「Gathering」は、コロナ禍の前後でも不変であると強く感じました。
続いて、二つ目は、「健康分野」であり、健康づくりに繋がる商品のご紹介に力を入れていきたいと考えています。10月には、日本のスギ薬局とコラボレーションしフェアを実施することも計画中です。
最後に、三つ目は、先程も申し上げましたが、「リビング分野」であり、ワンランク上の層を拡大しながら一つの核にしていきたいと考えています。そのためにも生活全般のコンサルティングを強化していく予定です。

6.日本とマレーシアでは、お客様のご要望や御社のセールス戦略など、どのような違いがありますか?また、マレーシアにおける日系デパートの先駆けとして、今後どのような戦略、展開をお考えですか?

日本の百貨店は、ハイエンドのブランド、ファッションが中心となっていますが、マレーシアでは、美・食・住を中心に進めていきたいと考えています。また、日本はデジタルを通じた消費にシフトしていますが、マレーシアではデジタルの強化に加えて、アナログとのハイブリッドも必要だと考えています。また、フィジカルでの接点にも力を入れていく予定で、日本の伊勢丹が得意としている、1to1の外商戦略もマレーシアで取り入れていて、外商を通じてお寿司のケータリングなど、日本の商品のお届けの対応なども既にスタートさせています。

今後はさらにマレー系の富裕層は拡大していきたいと考えています。現在、マレー系の富裕層向けファッションの数字が上がってきており、そういったお客様は生地の質や柄を重視されていて、家族全員がお気に入りのブランドでファッションを揃えるといった傾向も増えてきいます。ファミリーコンセプト展開も必要であると考えています。

自社のバイヤーが頑張りを見せ、新しい出店希望のブランドの確保が出来ていて、今後はバイヤーをさらにスペシャリストとして育ててきたいと思っています。インバウンドについても、マレーシアのバティックは大変ファッショナブルであり、御土産や記念に買っていかれるお客様も多くいらっしゃるので、マレー系ファッションについては今後もっと拡大、展開していきたいと考えています。

7.リニューアルオープンするするIsetan Gardens mallの概要と目的について教えて下さい。また、お勧めのメニュー、キャンペーンやプロモーションなどが有りましたら、ご教示ください。

8月19日に百貨店フロア、9月9日にレストランフロアがリモデルオープンする予定です。従来、Gardens mallは中華系の富裕層が多く、客単価も高い店舗ですが、今回のリニューアルは「美と食のスペシャリティストア」がコンセプトとなっています。

■レストラン

Lot 10で好評のレストランを含め、「日本食レストラン&バー」を8テナント新規導入しました。

①寿司ダイニング(タイでミシュラン一つ星をとった寿司フュージョンレストラン)
②とんかつ(マメトン)
③JAPAN ビア バー
④焼肉(JYUJYU 伊勢丹自主)
⑤しゃぶしゃぶ(モーモーパラダイス)
⑥ラーメン(シャカリキ)
⑦ジャパンパスタ&チーズケーキレストラン(伊勢丹自主)
⑧鉄板焼(田丸屋)

■レストラン(専用)のアプリ(The Table)を導入。

さらに、バウチャー発行を含めISETANカードからアプリへの移行も予定。アプリ・バウチャーの発行だけではなく、店内でのデジタル化も進めていく予定です。

8.健康に対する意識が変わったとおっしゃっていましたが、異なる民族に対して、どのように展開していくのか

ハラル・ノンハラル、両方のお客様にとって居心地のよい空間づくりを進めたいと考えています。人種にフォーカスするだけでなく、且つ、日本だけに特化するのではなく、全世界の最先端の情報を集め、プロモーションを打ち、イベントの回数をもっと増やし、常設コーナーの方も拡充する予定です。
鮮度も重要な健康のテーマであるため、生鮮品を拡大するだけでなく、鮮度に関しては、日本人の感覚を入れ、より質を高めていきたいと考えています。また、伊勢丹の物流の強みを活かしていきたいです。

9.日本の良さとは?

上質・安心・安全は当然ながら、日本には、旬があることが一つの良さだと思っています。その季節ならではの楽しみ方も重要だと思っています。また、アレンジする力。これも日本ならではだと料飲分野で実感しました。現在、料飲分野は5年目ですが、開業当初は苦戦し、原因は日本の価格で日本のメニューのままやっていたからだと感じました。ちょっとしたアレンジを加えることは、日本人の得意とするところであり、ローカルの方向けに少し濃い目の味付けにしてみる、少しチリを足してみるなどのアレンジで、双方のいいところを活かす形でよりよい融合を生み出せると感じました。今後はこのアジャスト力を、食だけではなく、ファッションの方でも発揮していきたいと思っています。

10.マレーシアにおける呉服の可能性について

着物を浸透させることは簡単ではないと思いますが、先日開催された盆踊りにこれだけの人が集まることに大きな衝撃を受けました。マレーシアには世界の文化を取り入れる柔軟性や風土があり、先日の盆踊りに浴衣を着て参加してらっしゃるローカルの方も多くいて、着る機会を作れば楽しむという感覚があることを実感しました。そういった意味では浴衣には可能性があると感じていて、コスプレについても可能性あると感じます。

11.DXについて

レストランフロアには内装も日本を想起させる提灯やのれん(伝統)×デジタルサイネージ(最先端の革新)を導入し、味覚もさることながら、聴覚・視覚、五感で楽しんでいただける空間作りを意識しました。デジタルの使い方は今後もしっかりと社内で協議し積極的に取り入れていきたいと考えています。

~リモデルオープンした店内の様子~
提灯やのれんなどの日本の伝統文化と
最先端のデジタルサイネージを組み合わせた
印象的な空間となっている。

12.最後に皆様に一言

日本はマレーシアに届けるべき素晴らしい素材とマレーシアに貢献できるアレンジ力を持っています。日本の素晴らしさをマレーシアの多くの方に知っていただけるようこれからも努力を続けて参ります。日本人の皆様も、店舗で様々な文化を交流できるイベントを行って参りますので力がぜひフィジカルで売り場に足をお運びいただければ幸いです。

以上

広報委員会編集委員
池谷 佳代 /KDDI
土山 大地 /東京海上マレーシア
野中 利江子 /東京海上ライフ